付録E: 業務手順書テンプレート集
本編第8章「業務手順書を作る」で紹介した手順書の4要素を、よく使う3つの業務(コンテンツ作成・SNS投稿・調査レポート)の形に落とし込んだテンプレート集です。そのままコピーして、自社用の手順書の出発点として使ってください。
業務手順書の4つの要素
本編第8章で詳しく解説したとおり、業務手順書は以下の4要素で構成します。
- 前提条件: この業務を実行するために必要な入力・情報・リソース(例: 記事テーマ、元ネタ、読者ターゲット、記事の目的)
- ステップ: 実行順序に沿った具体的な手順(上から順に、1つずつ実行する)
- 各ステップの合格基準(チェックポイント): そのステップが完了したと言える条件。満たしていなければ次のステップに進めない
- 最終合格基準: 業務全体の最終的な成功条件。全ステップを通過しても、最終基準を満たしていなければ完成とは認めない
3行のメモから育てる考え方
最初から完璧な手順書を設計する必要はありません。本編第8章で紹介したように、CC Companyの記事作成の手順書も最初は「テーマを決めて、書いて、チェックする」の3行のメモから始まりました。
運用しながら、失敗するたびに「ここで毎回つまずく」という場所を見つけて、一行ずつ育てていけば十分です。以下のサイクルを回してください。
- 初版: 主要なステップだけ記載。チェックポイントは簡潔でよい
- 1回目の失敗: つまずいた箇所にチェックポイントを追加
- 2回目の失敗: より詳細な説明を追記
- 3回目以降: 条件分岐やエッジケース(通常とは異なる特殊な状況)を追加
手順書は「使うたびに強化される」生きたドキュメントです。本編第8章の講演スライドの手順書を4回作り直した話を思い出してください。最初から完璧を目指さず、運用しながら育てていくのが近道です。
テンプレート集
以下、よく使う3業務分のテンプレートです。自社に近い業務のテンプレートをコピーして、[括弧内]を埋めるところから始めてください。
テンプレート1: コンテンツ作成スキル
目的: 企画段階からレビュー・品質チェック・リライトまで、一気通貫でコンテンツを制作し、公開可能な状態に仕上げる。
前提条件:
- コンテンツの目的(読者にどう思わせたいか)が明確
- 執筆ルール・トーン&マナー・評価基準を定義したドキュメントが存在する
- テーマまたは参考にすべき元ネタが指定されている
ステップ:
-
テーマ・目的の確認:ゴール照合を実施。「読者にこう思わせたい」が明確か?
チェックポイント: 目的が1文で表現できる -
構成案の作成:見出し構造を作成しオーナーに提示
チェックポイント: オーナーが「この構成で進める」と承認 -
下書き執筆:トーン&マナーに従って本文を執筆
チェックポイント: 全セクションが埋まっており文体が一貫 -
ユーザーレビュー:オーナーに提示しフィードバックを受ける
チェックポイント: フィードバックが記録されている -
品質チェック:評価基準に基づいて採点
チェックポイント: 合格ライン以上、または不合格項目がリスト化 -
リライト:不合格項目を修正(最大5回)
チェックポイント: 修正後に再評価で合格 -
最終チェック:文字数・リンク・タイトルの最適性を確認
チェックポイント: すべてのリンクが有効 -
ファイル保存:本体とメタデータを分離し保存
チェックポイント: 本体ファイルに投稿メモが混在していない
合格基準:
- オーナーが「公開OK」と判定
- 評価基準で合格ライン以上
- 文体・トーンが統一
- 全引用・データに出典が明記
- リンク・画像がすべて正常
最大修正回数: 5回
テンプレート2: SNS(Social Networking Service:ソーシャルメディア)投稿作成スキル
目的: SNS投稿文を生成し、プラットフォーム別ガイドラインに準拠した投稿可能な状態に仕上げる。
前提条件:
- 投稿のテーマ・背景が明確
- SNS投稿ガイドライン(トーン、禁止表現等)が定義されている
- プラットフォーム別の仕様(文字数制限、ハッシュタグ等)を把握
ステップ:
-
投稿の目的・ターゲット確認:何を達成するか確認
チェックポイント: 「読んだ人にどう感じてほしいか」が説明できる -
プラットフォーム別の制約確認:文字数制限・推奨フォーマット・禁止事項を確認
チェックポイント: ガイドラインを読み込んでいる -
投稿文案の生成:ガイドラインに従い複数案(3案以上)を作成
チェックポイント: 3案以上が生成されている -
目的照合チェック:生成した投稿文が目的に合致しているか確認
チェックポイント: 全候補が目的照合を通っている -
品質チェック:プラットフォーム別チェック項目を実行
チェックポイント: 全項目合格 -
修正:不合格項目を修正(最大5回)
チェックポイント: 修正後、全項目合格 -
ファイル保存:投稿文をファイルに保存
チェックポイント: ファイル名に投稿日・プラットフォーム名を含む
合格基準:
- ガイドラインの品質チェックに合格
- 目的が達成される可能性が高い
- トーン・キャラクター設定に一致
- リンク・ハッシュタグが正確
- 文字数がプラットフォーム仕様に適正
最大修正回数: 5回
テンプレート3: 調査レポート作成スキル
目的: 特定テーマについて情報収集・分析を行い、構造化レポートにまとめて意思決定の根拠を提供する。
前提条件:
- 調査テーマと目的が明確
- 必要な調査深度(概要/詳細)が指定されている
- Web(ウェブ)・学術文献へのアクセスが可能
ステップ:
-
調査テーマ・目的の確認:「この情報を得て何を判断するのか」を理解
チェックポイント: 「結果をどう使うか」が説明できる -
検索戦略の立案:キーワードと検索プラットフォームを計画
チェックポイント: 日本語・英語両方のキーワードがある -
情報収集:最低3つ以上の信頼できるソースから情報を収集
チェックポイント: 3つ以上の異なるソースがある -
情報の検証・比較:ソース間の矛盾がないか確認
チェックポイント: 矛盾があれば明記されている -
エグゼクティブサマリー(意思決定者が3〜5行で結論を把握できる要旨)の作成:3〜5行で調査結果を要約
チェックポイント: 要約が3〜5行以内 -
構造化レポート作成:テーマ、サマリー、調査結果、インサイト、提案、出典一覧
チェックポイント: 全セクションが埋まり出典がすべて記載 -
品質チェック:ソース数、出典の完全性、提案の具体性を確認
チェックポイント: 全チェック項目OK -
オーナーレビュー:レポートを提示しフィードバックを受ける
チェックポイント: 「このレポートは使える」と判定
合格基準:
- 最低3つ以上の異なるソースから情報が集められている
- 全ソースにURL(Uniform Resource Locator:インターネット上の住所)が記載され検証可能
- エグゼクティブサマリーが3〜5行
- 提案が具体的(「〜すべき」レベル)
- ソースの信頼度が高い
最大修正回数: 5回
手順書を育てるサイクル
テンプレートは出発点にすぎません。本編第8章で講演スライドの手順書を4回作り直した話を紹介しましたが、同じように、使うたびに失敗と改善を繰り返して、組織固有の手順書に育てていきます。
チェックポイント追加のサイクル
- 初回実行: テンプレートの基本構成に従う
- 失敗・指摘が発生: つまずいた箇所を特定する
- チェックポイント追加: 同じミスを防ぐ検査項目を、つまずいたステップに追加する
- 再実行: 強化されたテンプレートで次回を実行する
- 繰り返し: テンプレートが「組織固有に最適化された」ドキュメントへ進化する
ガイドライン(内容)との併用
手順書(このテンプレート集)と、ガイドライン(執筆ルールやトーン&マナーなど内容に関する基準)は役割が違います。両方を揃えることで、新入社員もAI社員も独立して高品質な成果物を生み出せます。
- テンプレート(手順書): 構造を定義する(前提条件・ステップ・各ステップの合格基準・最終合格基準)
- ガイドライン: 内容を定義する(会社のルール、表現の基準、禁止事項など)
ガイドラインは付録Cの「育成マニュアルテンプレート集」を使って部署単位で作成し、手順書(付録E)は具体的な業務単位で作ります。部署のマニュアル+業務の手順書+評価の品質基準(付録D)の3つがセットで、AI社員が独立して動けるようになります。
あなたの会社への落とし込み方
最初から完璧な手順書を作ろうとせず、運用しながら育てていくのが近道です。以下の順で進めてください。
- 毎週1回以上やる業務を1つ選ぶ(記事作成、議事録作成、請求書発行など、繰り返し発生するもの)
- 一番簡単なバージョンで書く。3行のメモで十分です
- 1週間運用してみる。つまずいた箇所をメモに残す
- つまずいたステップに「チェックポイント(そのステップの合格基準)」を追加する
- 必要に応じて「前提条件」も追加する(「このステップを始める前に揃っているべき情報」を明文化)
- 最終合格基準を決める(業務全体として何をもって完了とするか)
- 別の業務に広げる。最初の手順書で得たコツを、他の業務の手順書作りに転用できます
本編第8章でも繰り返した言葉です。手順書は失敗の記録である。成功したやり方を書き残すのではなく、「こうしたら失敗した」という経験を、同じ失敗をしないためのチェックポイントとして残していく。その積み重ねが、あなたの会社固有の、他では手に入らない資産になります。